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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

「お世継の問題で、六万石のお国許の浮沈にかかわる一大事なのです。この羅門も、かねてご依頼をうけていることゆえ、安閑と、よそごとに眺めてはおられません」

「そうそう、いつか承った。龍山公のお血統を探すについて、尊公が内々その詮議を仰せつかっているというような話を――」

「されば、それについて、非常に心をいためておるが、昨年来当奉行所に関り合って、意外な難事件に携わったため、その方がすっかり捗らずにいるのです。こんどのご出府には、まず何よりまっ先に、そのお詫びからいたさねば気がすみません」

「ご尤もな心配じゃ。しかし、幕府の方は、御老中や要路の役人方へ、相応な黄白をもってご挨拶いたせば、まだ二年や三年のご猶予はして下さると思うが……」

話しているところへであった。

「羅門様、ご書状です」

と、下役の者から、届けられた一通の密封。――はっとして、羅門の顔が紅くなった。

「オオ、龍山公から。たった今、噂をしていたところ……」

と、押しいただいて、封を切った。

紛れもない、直筆。前黄門の品位のたかい書風であり、それに、有名な能筆なのですぐに分る。

「お使者の方に、相違なく、明夜は参上いたしますと、お答えしてください」