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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

と、一蹴して、

「その密約が成り立つと、汝は、指一本を、千金に売った。郷左衛門は、その指一つを手にするごとに、龍山公の血統が絶滅してゆくのをよろこび、やがて、伜の主水を、主家の世継に立てる悪謀を夢みていた。その悪謀につけ入って、汝は、おのれの情婦としている玉枝を、偽落胤に仕立てあげて、主水の正室にすることを約束している。――そして亀山六万石を、あの愚か息子と、芸人上がりの玉枝とで、二つに頒ける魂胆であった」

「う、うぬ。――まだ申すか」

「汝に代って、懺悔をしてつかわすのだ」

「懺悔? 片腹いたいことを申すな。おのれの一子郁次郎の罪悪はつつんで」

「あれにも落度はある。しかし、法を犯したものではない。女笛師のお雪が、旅芸人であった頃、彼はふと、遊学先の長崎で、その美貌にひき込まれて、恋に落ちたまでのことだ。彼は、気が小さい、そして善人すぎるために、わしにそれを打ち明け得なんだ。そして、この江漢には、まだ江戸表へ帰らぬていにしておいて、許嫁の花世どのに、苦しい胸を打ちあけた。それが、五百之進殿の耳にはいったため、すべてを婚儀の前に、内密に済まそうとしたのが間違いだった。