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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页
「どうして、お前は、それを知っているのか」
と、塔十郎は筆をうごかしながら訊ねる。
「主の勤め先と、ちょうど近い所に店がございますので。それに、この佐渡屋の旦那様が、どのお弟子さんよりも、いちばん足繁く此家へ通っておりましたから、自然顔を見かけることも多うございました」
「では、この佐渡平も、雪女の所へ笛を習いに来ていた弟子の一名なのだな」
「左様でございます。佐渡平さんが来ると、いつも夜遅くまで笛の音がして、時には、笛と三味線を合奏せて、睦まじくお酒でも飲んでいるかと思われることも度々ございました」
「む」
と、塔十郎はうなずいて、
(さては、お雪はこの佐渡平に囲われている女かも知れぬ)と、呟いた。
だが、不思議なのは佐渡平の死骸で、一ヵ所の突き疵も、切り傷もない。また、毒を嚥んだような斑点や絞殺された痕も見えないのである。
お蔦を隣家へ返してから、塔十郎はおもむろに東儀与力に向って、
「どうです。これでほぼ見当がついたでござろう」
と、言った。
東儀は首をひねって、
「さ? ……」
と、考えこんだ。
「事件は簡単です。殺害の原因はありふれた男女の痴情にすぎぬ。