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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

「ほ。それでは、大名から秘密に頼まれている仕事なのですな」

「ま、そういったわけです」

「どんな内容か、お差支えなければ、話して下さらぬか。また場合に依っては、吾々のようなものでも、一臂のお力になる折がないとは限りませぬ」

東儀与力は、自分より若い羅門塔十郎が、そんな自由な境遇にあって、大名の信望までかち得ている身分を羨しいものに思った。まったく、裕福な大名から秘密な詮議を依頼されて、それに成功すれば、極りきったお上の年扶持を捨てても一代安楽に暮されたものであった。

で、そういう仕事は、尠なくも、東儀与力などには羨望ものである。あわよくば、話に乗って、幾分の一の報酬でも約したいと考えた。

塔十郎は、彼のさもしい眼には気づかぬように、鷹揚に、隔意のない容子で、

「いや、差支えがあるどころか、それはぜひ聞いておいて戴きたいと思う。そして、何かの時には、貴公たちのお力添えも仰ぎたいし……」

「どうか、ご遠慮なくおっしゃって戴きたい。こんどの難事件で、其許のご出馬を願ったからには、いわば、相身互いと申すもの……」

「では、その辺で一服いたそうか」

塔十郎は莨入れを取り出して、見晴らしのよい坂の途中に、切株を見つけて腰をかけた。