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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

と、上がってしまった。

若い小間使は困った容子であったが、東儀が誰であるか、どんな役目の者かは、知っているので、恐々、奥の客間に通して、茶を出しておいた。

と――二人がことばもなく、寂然と、坐り合って、花世の帰るのを待っていると、二間ほど隔てた奥の室で、人の咳ばらいが聞えた。

「? ……」

二人は、無言の裡に、眼を見あわせた。

無人だといい、主人も知行所へ旅立ちをして不在だといったのに、今の声は、たしかに男の咳ばらいである。

同じような疑問を抱きながら、しばらく、羅門も東儀も耳をてていると、やがて、そこの部屋の襖があいた。そして、すすすと、辷るような跫音が廊下づたいに近づいてきたかと思うと、隣の部屋をのぞいて、

「花世どの、花世どの……」

と、呼んだ。

つづいて、独り語が洩れた。

「おや、お部屋にはおらぬのか。……ははあ、花を挿けておられるな、では、客間か、花世どの」

と、こんどは、二人の控えている客間の境を二尺ほどすうっと開けた。

「やっ?」

東儀三郎兵衛は、倒れるばかりに驚いて、思わず大きな声を発してしまった。

開けた方の者も、吃驚したのであろう、はッと、顔いろを変えて、