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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页
と花世も、さもさも感じ入ったように、彼の巧みな座談にひきこまれて、初対面から打ち溶けた風であった。――東儀与力はまた、二人の話が合ってゆくので、羅門の社交的な才にも密かに敬服していたが、わるくするとこんな動機に二人の間に恋愛でも生れはしまいか、と余けいな心配を持ってみたりした。
「おお、つい話しこんで、思わず長座をいたしたが、時に……」
と、塔十郎はやがて思い出したように、
「貴女は松平周防守のご隠居――亀山の龍山公をご存知ありませぬか」
と、さりげなく、本題を訊ねだした。
急に、話題が変ったので、花世はすこし不審な顔をしながら、ぱっちりと眼を向けて、
「いいえ、ちっとも……」
「ではお父上の五百之進殿から、何かその龍山公について、話されたことでも」
「それもございませぬ」
「ははあ。では……不躾なことばかり伺いますが、貴女の母上は、ご生存ですか」
「母は幼い時に亡くなって、父の手一つで育てられたと聞いておりまする」
「して、五百之進殿は、ご実父ですか、ご養父でございますか」
花世は、すこし憤っとしたように、
「はい、血をわけた、ほんとの父でござります」
と、語尾まで、はッきりと言った。