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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

……だんだん様子を訊ねてみますと、土蔵二階に居候をしている弟の忠三郎めが、その前から戻りませぬ」

「ふム、成程」

「この男は、以前は、肥前の唐津、堺、長崎などにも出店を持ち、相応にやっていた木綿問屋でござりますが、どうした心の狂いか、酒を飲みはじめて、店もたたみ、妻子もすてて、江戸表へ来るなり、私共の土蔵の二階に、為すこともなく遊び暮しておりました」

「では、お雪の家に取り捨てられてあった死骸は、その忠三郎の方じゃな」

「兄弟のことゆえ、人様がよく間違えるほど似ておりますので、こんな事になったのではないかと存じまする」

「それならそうと、なぜすぐに、届け出んのじゃ」

「私が帰ったのも、つい昨日で、帰ってみれば、今申し上げたような大騒動、女房は急に病の枕を上げる、親類は来る、こんどは忠三郎が見えないといったような取込みようで、つい、お届けを怠りましたが、明日は、自身で出頭いたすつもりで、今も今とて、お越しとは存じながら、奥に、謹慎しておりましたのでござります」

と、改めて、奥へ招いて、酒肴を出した。

東儀はそれへ手もつけないで、すぐに、為替の調べにかかった。その方の話は、店のことだけに簡単に分明した。