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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
「ね、わたし、ほんとにカルルスバードはやめたいわ。かえって横腹がいたくなってしまうもの」
「そりゃ御本人がいやだっていうなら、それまでのことだがね」
「フロムゴリド博士にだって、決してわるいことはないと思うわ。プラーグで博覧会とかち合おうなんて、思ってもいなかったことなんですもの」
伸子は素子をときふせた。カルルスバードへ行かないときまったら、翌日プラーグの市内見物をして、夜の汽車でひと思いにベルリンまで行ってしまおうということになった。
次の日は朝から細かい雨ふりだった。細雨にけむる新緑の道をゆっくり馬車で行きながら、モルタウ河にかけられている中欧らしい橋や城を観てゆくと、伸子は、たった一日たらずでこのこまやかな趣のある、そして宗教改革者フスのまけじ魂をもった町を去ってしまうのが心のこりだった。それに伸子たちが選んだベルリン行の列車ではドレスデンを真夜中に通過することになった。中欧のフロレンスと云われるドレスデンの美術館も見ないでしまう。
「カルルスバードをやめたんだから、もう一晩とまって、ドレスデンへ昼間つく汽車にしない? 四五時間でもいいから」
有名なプラーグの天文時計を見るために、市役所に向って行く馬車の上で、伸子は素子に云った。