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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《平の将門(たいらのまさかど)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 頁

青空文庫

水草記

そして、なぜか、睫毛に涙をすら、にじませた。

「……蝦夷萩。……死んだ蝦夷萩と、瓜二つだ。これは、彼女の生れ変りではないのかしら?」

そう思われるほど、小次郎が十四のときに初めて知った、美しい奴隷の娘と、よく似ていた。

彼は、卒然と、寝醒めのうつつに、坂東平野の牧の馬小舎を思い出した。馬の寝ワラの中で、年上の奴隷の乙女に愛撫されたときの匂いが、そばの女からも嗅ぎ出されていた。そっくり、その時のような幻想と野性をもって、いきなり寝顔の唇へ唇を圧しつけた。女は、ア……と軽く驚いて、眼をあいたが、男の遠慮ぶかい四肢を、いきなりふかぶかと抱擁した。そして小次郎の、過去ともつかず、今ともつかぬ、幻覚と妄想を、野火のような情炎で焼きつくした。

水草記

霧もふかく、夜も明けきれていないので、柳の木々は、雫をもち、大河の水もまだ眠たげで、江口の岸に、波騒いも立てていない。

「……どこ? 生れた国は」

小次郎は、女とならんで、散りかける柳の水際を、歩いていた。自分たちの宿もまだ寝ているし、同じような屋造りの遊女宿も、商い家も、いまが夜半のように、ひそまっている暁だった。