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たいらのまさかど
平の将門
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《平の将門(たいらのまさかど)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 頁
は思えない。夏なので、白絹にちかい淡色の袿に、羅衣の襲ね色を袖や襟にのぞかせ、長やかな黒髪は、その人の身丈ほどもあるかとさえ思われた。櫛匣をおき、鏡にむこうておられたのを、なかば捲かれた御簾ごしに見たのだが……」などと、乏しいかれらの形容詞ではなかなかいいきれない程に、艶なるさまを、説明して聞かすのであった。
小次郎も、それは幾たびか耳にして、ひとしい物好みの血を、彼も人知れず掻きたてられていた。ところが、はからずも――それは、短夜も明け遠い気がするほど寝ぐるしかった土用の真夜半、おもいがけなく、紫陽花の君のすがたを、あらわに、しかも目のあたりに見得るような、一つの事件にぶつかったのであった。
彼は時々、こっそりと、館の裏へ抜け出して、加茂川の中に身を沈め、独りジャブジャブと夜を水に遊ぶ習慣をもっていた。からだの垢や汗を流すばかりでなく、自然なる水の意志や生気と戯れあって、本来の野性と、若い体熱に、思いのままな呼吸をさせる楽しさが、何ともいえぬよろこびだった。
これは、彼ひとりでなく、他の多くの下部でも、たそがれ過ぎには、皆やる水浴であった。しかし彼のばあいは、蚤虱に寝もだえる夜半だの、未明の頃に限っていた。