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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(五)金の鯉

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(五)金の鯉(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 136,062 字 · 276 頁

青空文庫

「それだけか」

「それだけかとおっしゃっても、私にとっちゃそれだけじゃ済みません。三年越し店を手伝って、奉公人並みに働きながら、一文も給金を貰ったことのない私が、たまたま歯磨きを使ったのが贅だとか、手拭を買ったのが生意気だと言われちゃ、我慢がなり兼ねます。今晩すぐ出て行け――と言うのが、あんまり癪にさわるから、質で只みたいに取った脇差のうちから、一番光るのを持出して、脅かしのつもりで二階へ登って行くと――」

「…………」

茂七はさすがにゴクリと固唾を呑みます。

「お神さんの部屋から飛出して、向うの裏梯子の方へ行く者があります」

「男か、女か」

「それが判りません。何しろ江戸一番の締り屋で、二階廊下が危ないのを承知の上で、どうしても有明を灯けさせない人です」

「…………?」

「何心なく部屋へ入ると、――驚いたことに、お神さんは、行灯の前に俯向きになって死んでいるじゃありませんか」

「どうして死んでいると解った」

「そこら中が血だらけで」

「着物へ吸い取られて、大した血ではなかったというが」

「でも、一と眼で解りましたよ、――あんまりびっくりして、思わず大きな声を出すと、番頭さんが飛んで来ました」