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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(五)金の鯉
野村 胡堂
線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(五)金の鯉(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 136,062 字 · 276 頁
――多分、他所見をしているうちに、自分へからかって、先へ帰ったのだろう――そんな暢気な心持で主人の家へ帰って来ましたが、もとより先に帰ったわけではなく、お雛の姿は、それっきり、誰の目にも付かなかったのです。
近江屋の騒ぎは大変なことになりました。出入りの頭を総大将に、番頭小僧から出入りの商人、町内の若い者まで駆り集めて、観音様を中心に、界隈の路地裏からゴミ箱の中までも探し廻りましたが、どこへ消えてしまったか影も形もありません。
あまり綺麗すぎて魔がさしたか、人買い人さらいといった類の悪者にしてやられたか、それとも、美しい虹のように蒸発してしまったか、噂は噂を生んで、際限もありません。
三日目――の夜でした。
店の大戸を下ろしてしまってから、ホトホトと叩く者があるので、そこに居た小僧の兼吉が、何の気もなく臆病窓を開けてヒョイと覗くと――、
ツイ軒の下の暗がりに、紛れもないお雛が、水に濡れたような姿でションボリ立っていたのです。向う側の屋根の上にかかった、青白い月に照されて、それがまた何とも言えない物凄さ。
「あッ、お嬢様」
あわてて潜りを開けて、店中の人が飛出しましたが、夏ながら凍るような月夜で、蟻の這うのも見えそうですが、兼吉が見たという、お雛の姿はそこにはありません。