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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(五)金の鯉

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(五)金の鯉(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 136,062 字 · 276 頁

青空文庫

「銭形の親分さん、先刻からいらっしゃることは存じておりました。わざわざこんな小屋へ御運びで、有難う存じます」

甚三郎、なかなかの聢り者らしい男です。

「早速聞きたいが、車坂の桔梗屋のお藤――」

「ヘエ」

甚三郎の顔色は動きました。

「あれを知ってるだろうな」

「存じております。家出をなすったそうで」

「家出じゃない、さらわれたのだよ」

「…………」

「知っている事はみんな言って貰いたいが」

平次の言葉は穏やかですが、隙もなく切り込んで行く名剣士の切尖のような鋭さがあります。

「世間ではいろいろの事を申しますが、私とは身分違いで、別に御懇意を願ったわけじゃございません。一年ばかり前から御ひいきにして下すって、楽屋へいろいろの物を下さいましたが、近頃はお神楽の親分さんと仲が良いとかいう評判で、ここへはお顔を見せちゃ下さいません。そんな事は小屋の者が皆んな知っております」

「そうか、――お前の方では、あのお嬢さんをどう思っているんだ」

と平次。

「何と思ったところで、大家のお嬢さんと軽業の小屋に居る私とでは――」

甚三郎の眼は悲しそうでしたが、それは、境遇から来る一種の悲哀で、この男の心の底には、したたかな魂の宿っていることを平次は見逃すわけはありません。