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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(五)金の鯉

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(五)金の鯉(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 136,062 字 · 276 頁

青空文庫

「親分、こういうわけだ、なにぶん宜しく頼みます」

大家の主人ですが、こうなっては目明しや岡っ引の機嫌も取らなければなりません。

布袋屋の主人万三郎は、小判を五六枚鼻紙に捻ると平次の袖へそっと滑らせました。

「あッ、何をなさるんです。そんなことをしちゃ、かえって旦那の不為だ」

平次は小声でたしなめて、小判の包みを、万三郎の手に返しました。小判五六枚というと、今(昭和六年当時)の相場にして二三百円にも匹敵するでしょうから、ケチな岡っ引を買収する袖の下としては不足はありませんが、万三郎は平次の心持を測り兼ねて――もう少し多くしなければならなかったかしら――といった疑いに悩まされておりました。

平次は委細構わず、桟敷の上に不安な顔を押し並べた同勢を見渡しました。布袋屋万三郎は三十七八、少しのっぺりしておりますが、なかなかの好い男、その頃の通る大商人らしく、少しく派手ではあるが寛闊な様子合いから見ても、銀簪を揮って、女を殺すような人体とは思われません。

その後に従うのは、幇間が二人、燗番一人、盗み食いや夜逃げはするかも知れませんが、人間一匹殺せる人相のはありません。