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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 156,866 characters · 318 screens
「さア、引返そう」
「無駄だ」
平次は黙って夕靄の中を眺めております。
「どうした、銭形の」
「先刻は気が付かなかったが、定吉はもう生きてはいまい」
「えッ」
「とにかく、行ってみよう」
平次とガラッ八と喜三郎は、今度は何の遠慮もなく、夕方の街を駆け出しました。
三組町に着いて、房五郎の家へ飛込んだ時は、平次が予言したように何もかも終っておりました。
房五郎が二階で寝ているうちに、女房のお仙は連れ子の定吉を殺して、自分も死んでいたのです。
定吉はこの世で一番信頼する母親の手で、死ぬまで何にも知らずにいたことでしょう。二挺剃刀で後ろから咽を切られ、血汐の海の中に突っ伏し、お仙はその上に崩折れて、これも見事に生害していたのでした。
房五郎の驚き――いや、そんな事は書くまでもありません。
*
「八、相変らず絵解きを聴かして貰いたいと言うのだろう」
帰って来ると、熱いのを一本つけさして、平次はこんな事を言いました。
「ヘエ、先刻からウズウズしているんで」
八五郎は前へ乗り出して膝小僧を隠します。
「何でもないよ。新吉、岩松の兄弟はとんだ仕出しさ。だが、あの二人はなんとなく好きなところのある人間だよ、――それよりも惜しいのはお仙さ」