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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 156,866 characters · 318 screens

Aozora Bunko

七

あれはやはり騒ぎに驚いて駆けつけた時、裾へ付いた血です」

「…………」

「文次どんは、店中の評判になっているほど臆病なんです。着物の血を洗ってとがめられたので、すっかり脅えて、今度は縛られるに相違ないと思い込んだんでしょう。――逃げ出したのは、この人の臆病のせいで、旦那を殺したためじゃありません。嘘だと思うなら、店の手代、小僧さん達に聞いて御覧なさい。――文次さんは御飯の後で店から少しも動かないのは、私もよく知っております」

銭形平次に一句も言わせないような明察です。この不思議な娘の弁護を、文次はなんと聴いたでしょう。金六の逞しい腕の下にさいなまれながらも、両手を合せて、ポロポロと泣いているのでした。

「娘さんの言う通りだ。金六兄哥、その番頭さんは人を殺せないよ」

と平次。

「チェッ、忌々しい野郎だ」

金六は突き飛ばすように、文次を放してやりました。

七

「銭形の、これじゃどうにもなるまい、一度引揚げるとしようか」

家中に灯が入ると、年寄りの金六は、里心が付いたように、こう言うのでした。

「いや、もう一と息だ。――俺は何だか、次第に解ってくるような気がする」

平次は少し瞑想的になっております。