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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 156,866 characters · 318 screens

Aozora Bunko

六

銭形平次もさすがに、腕を拱いて唸る外はありません。

六

「ちょいと、明るいところへ顔を出して貰おうか」

平次は手代の駒吉を、縁側の陽の中へつれ出しました。

「ヘエ――」

「白状してお慈悲を願った方がいいよ」

「親分」

駒吉は舌が引釣って、しばらくは言葉も出ません。激しい恐怖が五体を走って、ワナワナと顫えるのです。

「町内の風呂屋へ行って訊くまでもあるめえ、顔へ紅なんか塗りやがって――御徒士町からここまで、駆けて来て主人を殺したろう」

平次は駒吉の肩先を掴んで、なおも陽の方へその顔をさし向けるのでした。

「親分、違います。私が殺したんじゃありません」

「それじゃ誰だ」

「御徒士町からここへ駆けつけて、格子の外から覗くと、旦那はもう短刀を首筋に突っ立てて死んでおりました」

「嘘じゃあるまいな」

「私はお嬢さんに逢いに来たんですが、あんまりびっくりして、そのまま飛んで帰りました。嘘も掛引もない話です」

「誰にも逢わなかったか」

「誰にも逢いません」

疑いは全く解消したわけではありませんが、顔へ紅を薄く塗って、町風呂へ行くと見せて女に逢いに来るような男が、格子を隔てて、三尺も奥に居る、主人を刺し殺せる道理はありません。