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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 156,866 characters · 318 screens

Aozora Bunko

五

「無いな、八」

「誰かに渡したんじゃありませんか、時刻を打合せて」

「そんな暇はなかったはずだ」

「…………」

二人は黙ってまた神田へ取って返しました。万策尽きた姿です。

五

その晩は事なく過ぎましたが、翌る日の朝、玉屋から急の使いで、平次は飯も食わずに飛んで行きました。

「親分、香炉は出てきましたよ」

番頭の甚助の顔は店口に輝きます。

奥へ入って行くと、主人の金兵衛も支配人の庄八も、全く蘇ったようでした。今度は羽が生えて飛出すとでも思ったのか、翡翠色の美しい香炉を奥座敷の真ん中に据え、二三人の者がそれを繞って、大名屋敷へ持って行く支度の出来るのを待っております。

「親分、とんだ騒ぎをさせて済まなかったが、このとおり蝉丸の香炉は返って来ましたよ」

主人の金兵衛は笑み崩れそうです。

「どんな具合に返りました、旦那」

と平次。

「今朝起きてみると、この部屋の床の間に、チョコンと据えてあるじゃないか、いや驚いたの驚かないの」

「誰が見付けました」

「娘だよ」

お幾の無表情な顔を、平次は部屋の隅っこに見出しました。

「戸締りはどこか変っていなかったろうか」

平次は誰へ言うともなく後ろへ振り向きます。