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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 156,866 characters · 318 screens

Aozora Bunko

「家の方にどんな用事があったんだ」

「それが不思議で、――瓦町の家へ引返すと、女房は使いなどをやった覚えはないと言います」

「フーム」

「私を手間取らせておいて、私に化けた奴が山へ駆けつけ、出雲屋さんを斬ったのでございましょう」

「誰かそれを見た者は無かったでしょうか」

平次は樫谷三七郎を顧みました。

「五人や十人は見ていたはずだ。が、花時の飛鳥山にはそんな茶番は毎日二つ三つある。血糊の使い方と、巡礼の落入り方がうまいなとは思ったそうだが、これが本当の人殺しとは誰も気がつかなかったらしい。――そのうちに虚無僧は逃げてしまったし、掛り合いが怖いと思ったか、一人も進んでその時の様子を話してくれる者はない。――これはみんな、茶店の老爺の口から出たことだ」

樫谷三七郎は舌鼓でも打ちたい様子でした。極度に掛り合いを怖れたその当時の群衆は、よしや、眼の前で人殺しがあったところで、黙って見て、黙って引揚げてしまったことでしょう。

「爺さん、お前さんは最初から見ていたんだね」

「ヘエ――、最初と申しましても、敵名乗が始まってからでございます」

茶店の老爺は逃げも隠れもならず、仕様事なしの証人になりました。