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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 156,866 characters · 318 screens
平次は妙なことを頼み込んで引下がりました。
笹野新三郎から町奉行に申入れ、町奉行から、御腰物方に伝えて、翌る日の午後にはもう、『拵え不行届』という名目で彦四郎貞宗を、もう一度、根津の御用達石川良右衛門の手に戻されたのです。
銭形平次は、その晩、根津の豪華な屋敷に石川良右衛門を訪ねました。
「何? 銭形の親分が来た、――丁寧に奥へ通すのだよ」
石川良右衛門は、訪問者の名を聴くと、座を移して、奥の客室に迎えます。
「旦那、とんだお邪魔をいたします」
相手は町人ながら苗字帯刀を許された身分、平次は謙遜って挨拶しました。
「用事というのは? 銭形の」
石川良右衛門はさすがに落着きを失っております。
「外でもございません、――研屋五兵衛の遺書に伽羅の匂いの浸み込んでいたことを御存じでしょうか」
「…………」
「最初は結構な煙草かと思いました、――恥かしながら、伽羅や沈香というものを、嗅いだこともない私で、あれが伽羅と判るまでに、とんだ苦労をしましたよ」
平次は淋しく笑います。
「で?」
石川良右衛門は冷静を取戻しました。
「五兵衛を刺した短刀は、あの前の日、五兵衛から旦那に返したことが解りました」