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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 156,866 characters · 318 screens
「驚いた商人だな、――碁がこんなに流行っちゃ、よし悪しだ。ところで、本当に夜っぴて碁を打っていたろうな」
平次はなに気なく店の者に訊きました。
「宵から暁方まで三番打ったそうですよ。引っ切りなしに石の音がして、それに吐月峰を叩く合の手が入るんで、寝付かれなくて弱りました、――これは内証ですがネ、親分」
番頭と手代は、顔見合せて笑っております。お勝手に廻って、飯炊きの女に聴くと、
「よくもあんなに碁が好きな人ですね。月に一度か二度は夜っぴてやりますが、一と晩現責めですよ。カチカチと石の音がするんですもの」
「飲みも食いもしないのかえ」
「お茶と、菓子ぐらいは置きますが、あまり手を付けません」
「碁で腹一杯になるんだね、道楽は恐ろしいよ」
平次はそう言いながら、そっと帰るより外に仕様がありませんでした。素人初段の宗七と、一と晩寝ずに碁を打っていたとすれば、これは疑う方がよっぽど無理です。
ついでに隣の宗七を覗くと、これは徹夜で昂奮したものか、座布団の上へ腹ん這いになって、朝の空気を深く吸いながら、お茶を呑んでおりました。
「おや、銭形の親分さん」
「お早う、昨夜は夜っぴて打ったそうだね、佐吉は一度も席を外さなかったかい」