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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 156,866 characters · 318 screens
「親分、今朝玉屋から出た者はありませんか」
「不思議なことに、お糸が出たっきり、猫の子も外へ出ないとよ」
二人は歩きながらこんな事を言っておりました。
「外から来た客は?」
「それもない」
「じゃ、香炉は玉屋にあるわけですね」
「お糸が持出さなきゃ、そういうわけだ」
「御用聞に持出させる術はありませんか」
「それも考えたが、酒屋米屋の御用聞は、お勝手口で下女に逢ったきりだ。香炉を受取る隙などはない、あのとおり人目が多いから」
二人はしばらく黙って歩き続けました。
「親分、番頭の甚助は朝のうちに出ているでしょう」
ガラッ八は顔を挙げます。
「それを忘れていたのさ。甚助はお糸の迎いに出た、――こいつは筋が立ち過ぎているから、朝のうちに出た人間に勘定するのを忘れたのさ」
「その途中で香炉は隠せないでしょうか、親分」
「玉屋から与次郎の古道具屋まで、たった半町そこそこ、その間にほんの五六軒しか家がない。物を隠す場所はないように思うが、――待ってくれ八、ともかく引っ返してみよう」
平次は踵を返すと、元の本郷一丁目へサッと引っ返しましたが、その辺は軒を並べた明るい店造りで、物が隠せる場所などがあるはずもありません。