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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 156,866 characters · 318 screens

Aozora Bunko

声を掛けずに後ろから刺せるわけはない」

「へッ」

「お前のように物騒な人間が入って行けば、第一若い娘は声を立てる。近所はあのとおり近いが、誰もお駒の声を聴いた者もない」

「…………」

平次の話は予想外なことばかりでした。

「それから、お前の手拭――橘の模様のある染分けの手拭は、血も何にも付かずに、お駒の殺された隣の部屋の押入に投り込んであったよ。これはどういうわけだ」

「…………」

「新吉を庇い立てするのもいいが、ウソはもう少し器用に吐くものだ」

平次の明察には、一言の抗いようもありません。

「恐れ入りました、――」

岩松はしたたか者らしい頭を垂れて、しばらく唇を噛みます。

「それみろ。――ところで、本当の事を聴かして貰おうじゃないか。岩松、お前はお駒を殺す気で、弟の細工部屋から切出しを持出し、橘の模様の手拭に包んで、お駒の家の前まで行った事は本当だろう。それからどうした」

あまりによく知り過ぎている平次の言葉に、岩松は飽気に取られてその顔を眺めておりましたが、思い直した様子で、こう続け出しました。

「恐れ入りました。それに相違ございません。房五郎への怨み、弟の歎き、お駒を殺して胸を晴そうと、あの格子まで開けましたが、障子一重というところでお駒に声を掛けられ、急に気が変ったのでございます。