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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 156,866 characters · 318 screens
「八」
「ヘエ――」
どこからともなく現われたのは平次でした。
「ここで、しばらく様子を見るんだ」
「ヘエ――」
二人は物蔭に入って小半刻も経ったでしょう。
「見ろ、八」
平次の指す方を見ると、次第に斑になった人を縫って、茶店の親父は山を降りて来ます。もう店を仕舞ったのでしょう、肩に担いだのはクルクルと巻いた毛氈が二三枚、片手に大きな箱を提げて、何のこだわりもなく百姓地の方へ入って行くのです。
「親分」
「シッ、今に面白いものが見られる、静かに後を跟けるんだ」
二人はそれっきり黙って、老爺の後に従いました。幸いの夕闇、一丁とも離れずに、楽々と後が追えます。
三河島のとある家、――貧しくも哀れな藁家の入口へ老爺は足を停めました。
鍵も何にも掛っていなかったものか、ガタガタと戸を開けて入ると、火打鎌を鳴らして行灯に灯を入れ、骨を引抜かれたように、その行灯の傍に崩折れる老爺です。今まで年より達者に見えたのは、気が張っていたせいでしょう。
「御免よ」
「…………」
老爺がギョッとした様子で顔を挙げました。片手は巻いた毛氈を犇と掴んでおります。
「俺だよ、爺さん、驚かなくてもよい」