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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 156,866 characters · 318 screens
「天罰ですよ、親分さん。私の兄には相違ありませんが、あんな悪い人間はあるものじゃございません。まごまごして兄殺しにされちゃ合いませんから、私は一目散に逃げました」
こんな薄情な弟が、兄を悪人呼ばわりするのですから、二人の日頃の仲も思いやられます。
「で、逃げた曲者が、何か持っていたはずだ。それに気が付いたか」
「そう言えば二間ぐらいの竹竿を持っていましたよ。流れを飛越す時も、それを使った様子で――」
「それでいい」
平次は五郎助を向うへ追いやると、もう一度考え込みました。
「親分、これは一体どうした事でしょう。この家を覗いた奴は二人も三人もあるのに、殺した奴は一人もないなんて、――やはりあのベタベタした妾が怪しいんじゃありませんか。風呂へ入る前にちょいとやって、風呂場で返り血を洗えば、後へ何にも残りゃしませんよ」
ガラッ八には、ガラッ八だけの考えがありました。
「女の力で、あれほど短刀は打ち込めないよ」
「…………」
ガラッ八はポリポリと盆の窪を掻きます。
「親分さん、駒吉は何にも知りゃしません。縛らないでしょうね」
そっと後ろから近づいたのはお糸でした。自殺で済ませば済んだのを、うっかり銭形平次を誘い出して、恋人まで疑いの俎上に上せるようになったのは、若い勝気な娘の我慢のならぬことだったのです。