Japanische Klassiker mit Furigana
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みみずのたわこと
みみずのたはこと
徳冨 健次郎
Lesen Sie みみずのたはこと (みみずのたわこと) von 徳冨 健次郎 (とくとみけんじろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 265.437 Zeichen · 530 Bildschirme
三
あの杉の森がなかったら、と彼は幾度思うたかも知れぬ。然し此頃では唯其杉の伐られんことを是れ恐るゝ様になった。下枝を払った百尺もある杉の八九十本、欝然として風景を締めて居る。斯杉の森がなかったら、富士は見えても、如何に浅薄の景色になってしまったであろう。春雨の明けの朝、秋霧の夕、此杉の森の梢がミレージの様に靄から浮いて出たり、棚引く煙を紗の帯の如く纏うて見たり、しぶく小雨に見る/\淡墨の画になったり、梅雨には梟の宿、晴れた夏には真先に蜩の家になったり、雪霽には青空に劃然と聳ゆる玉樹の高い梢に百点千点黒い鴉をとまらして見たり、秋の入日の空樺色にずる夕は、濃紺濃紫の神秘な色を湛えて梢を距る五尺の空に唯一つ明星を煌めかしたり、彼の杉の森は彼に尽きざる趣味を与えてくれる。
三
彼の家の下なる浅い横長の谷は、畑が重で、田は少しであるが、此入江から本田圃に出ると、長江の流るゝ様に田が田に連なって居る。まだ北風の寒い頃、子を負った跣足の女の子が、小目籠と庖刀を持って、芹、嫁菜、薺、野蒜、蓬、蒲公英なぞ摘みに来る。紫雲英が咲く。蛙が鳴く。膝まで泥になって、巳之吉亥之作が田螺拾いに来る。