Japanische Klassiker mit Furigana
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どようふじん
土曜夫人
織田 作之助
Lesen Sie 土曜夫人 (どようふじん) von 織田 作之助 (おださくのすけ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 106.903 Zeichen · 213 Bildschirme
階の喫茶室にいたからであろうか、それとも……。
喫茶室からは一眼でホールの隅から隅まで見下ろせたが、しかし、こおろぎまでは視力が届かない。とはいうものの、よしんばそれが出来ても、少くともその時の木崎の眼にははいらなかったに違いない。
なぜなら、木崎の視線はひたすら、辻陽子というダンサーの姿態や顔の動きを追うていたのだ。憑かれた眼にはそれだけしか見えない。
しかも、それが今夜で三晩も執拗につづいているのだ。最初の晩辻陽子を一眼見て、なぜかどきんとした途端に、もう木崎の眼は、
「よし。このダンサーだ。この女を撮ろう」
と、たちまちカメラのレンズに化してしまったが、しかし、非情のレンズにしては、何か熱っぽく燃えて、夜光虫のように光った。
木崎は自分の心の底を覗くように、レンズを覗いた。レンズの向うには、陽子のさまざまな姿態があった。が、三日目の今日まで、ついぞ一度もシャッターを切らなかった。
気に入った構図が見つかるまで、めったにフイルムを使おうとしない、名人気質的な、ふと狂気じみた凝り方は、いつものこととはいうものの、しかし、いつもの彼ならいそいそと撮ったようなポーズにも強く反撥していたのは、一体何であろう。