Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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だいぼさつとうげ

大菩薩峠13

中里 介山

Lesen Sie 大菩薩峠13 (だいぼさつとうげ) von 中里 介山 (なかざとかいざん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 349.705 Zeichen · 678 Bildschirme

Aozora Bunko

「わたしは知らない」

この瞬間、確かにお銀様は弁信の呼びかけた声を聞いたのです。だが、それが東西南北のいずれから呼びかけたかということは問題ではありません。お銀様は青天碧落の上を、やや昂奮の気持で眺めておりました。

その時に、お銀様の眼の中にありありと浮び出でたのは、トボトボと有野村を立ち出でて行くところの、弁信の憐れな姿でなければなりません。

かの如くして、我と行を共にし、縁を同じうし、ついには家を同じうし、ついには心も行動も投げ出して見せるほどの間柄になりながら、最後の対面の後、あの弁信を送り出す我が眼の中に一滴の涙もなかったことを、いまさら不思議に感じ出したものでもありますまい。

甲州一番の自分の家を焼き亡ぼしても悔いないお銀様です。肉身を呪い滅ぼしてかえって痛快を叫びたいお銀様が、どうして、弁信一人ぐらいが、つこうとも、離れようとも、心にかけるはずがない。

それがこの時、弁信の姿を思い起した。誰も見送る人もなく、どこを当てということもなく、災後の有野の家を、ひとりトボトボと出た弁信の姿だけを、まざまざとお銀様は天の一方で見出したものです。