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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
下りて来た火の光
!」
この時紋也の体形が急に左へ傾いて、肩が一刹那沈むように見えたが、右手が素早く前へ伸びた。ワッという喚き声の起こったのは、それとほとんど同時であって、そうしてその次の瞬間には、黒い大きな毬のような物が、三間あまりもケシ飛んで、紋也と左内との前にいた代官松が見えなくなっていた。で二人の眼の前には、月の光を吸っている空間と往来があるばかりであった。
「貴殿、松吉めを切られましたので?」
「いや」と紋也は白く光る抜き身をダラリと地へ向けてひっ下げたが、
「刀にソリは打たせませんでしたよ」
「ああそれでは峰打ちなので?」
「さよう、懲らしてやりました。……あまりに不作法に喋舌りますのでな。……が、あいつも素早い奴でござる。ケシ飛び方が神妙でござった。裏鋩子を胴へ受けたばかりでござろう。……とにかく帰宅だ」
「帰宅することにしましょう」
さてこうして紋也と左内とは、この一郭から立ち去ったが、ちょうどそのころ一つの影が小門を持った小家の前へ、浮かむがように現われた。
ほかならぬ目明しの代官松であった。
下りて来た火の光
小門のある家の小門の前へ、ボッと現われた代官松は、自分で自分を笑うがように、声を出してつぶやいた。