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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

隣りの部屋

――間! しばらくは静かであった。戸外で吹く風の音ばかりが聞こえる。しかし隣り部屋から女の声が聞こえた。

「……屏風へかけるがよいよ!」

隣りの部屋

その声を聞くと四人の武士は、眼を見合わせてまたも笑った。

その中の一人の武士がいった。

「屏風へかけるがよいよ、か、……うむとうとうそこまで行ったか」――で、じっと耳を澄ませた。

「俺にもそういうことがあった」もう一人の武士がややあっていった。「で、俺は帯を屏風の上へかけたものだ」ここでその武士は考えるようにしたが、「その時俺の献上の帯が、キューキューと鳴ったのを覚えている。そうしてあの縮緬の帯が、先に枝垂れた花のように、屏風の上にかけられてあって、なかば眩んでいた俺の瞳に、焼きついたのも覚えている」――この武士もじっと耳を澄ませた。しかし隣りの部屋からは、何の物音も聞こえなかった。

仕切られているところの襖の桟の、隙間がかなりあいているので、隣りの部屋をのぞこうとしたら、十分のぞくことはできるのであった。いやいやのぞくことができるばかりではなくて、むしろそこからのぞかせようとして、意識して桟をあけてあるのだと、そう思われる節さえあった。