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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
親の心
「さ、左内様!」と魘されるようにいった。
「もったいないお言葉でござります。何と申してよろしいやら! もったいないお言葉でござります! ……このような私を若様が! ……そうまでそんなにまでおっしゃって! ……お屋敷を出なさろうと仰せられる! お父様を捨てようと仰せられる! ……なんの私に! なんの私に!」で、ヒョロヒョロと捨て石から立って、ぶつかるように前へ進んだ。
「ああ」と左内も呻くようにいって、同じように捨て石から立ち上がったが、
「それでは私を……」
「命にかけても……」
「おお、お愛しくださるか?」
歓喜に顫える手をのばして、お菊の両手を取ろうとした時に、
「※(歌記号、1-3-28)裏道来いとの笛の音! ……これはこれは北条の若様、ここにおいででござりましたか」こういいながらお狂言師の嘉門が、馬酔木の裾をまわって、二人の傍へ寄って来た。
親の心
馬酔木の叢の裾をまわってヒョイと嘉門が現われたので、手を取り合おうとした左内とお菊とは、ハッとしたように飛びのいた。そういう二人を等分に見たが、嘉門は別になんともいわずに、酔いの醒めない足どりをもって、ヒョロリヒョロリと歩きながら、さも愉快そうに喋舌り出した。