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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
皮肉な目明し
……これらの事件と北条左内とは、何らか関係がなければならない。よしよし近いうちに左内に質して、秘密のつながりを聞くことにしよう」
二人は先へ歩いて行く。が、にわかに二人ながら、足を止めなければならないことが起こった。闇に包まれていた一軒の家の軒の下から一人の男が、スルスルと姿を現わして、二人の前へまで来たからである。
皮肉な目明し
「北条の若様ではござりませぬか」こういって声をかけたのは、闇に包まれていた一軒の家の、軒の下から現われた、敏捷らしい男であった。
「誰だな?」というと北条左内は足をとどめてすかすように見たが、
「ああお前か、松吉であったか」
「へい、松吉でございます」それは目明しの代官松であった。
「どこかのお戻りででもございますので」
「うむ」といったものの北条左内は、ろくろく返辞もしなかった。相手は下等な目明しである。旗本とはてんから身分が違う。それにもかかわらず父の美作が、どのような目的があるのかは知らぬが、この松吉に目をかけて、時々屋敷へ呼び寄せるのをいい気になって慣れ慣れしくふるまい、このような往来で心易そうにそんなように、言葉をかけたのが、潔癖の左内としては不愉快だからであった。