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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
武士ばかりを狙う
同じ小柄へ紙片を巻きつけ、相手の屋形船へ投げ返したが、紙片には文字をこう書いた。「心得て候。山県紋也より」と。
以上の三回を序曲として、いよいよ本筋へはいることにする。
その翌日のことであったが、ニヤリニヤリと笑いながら、西両国の広小路を、人をつけて行く人物があった。
武士ばかりを狙う
ニヤリニヤリと笑いながら、人をつけて行く人物があった。藍微塵の袷に、一本独鈷の帯、素足に雪駄を突っかけている。髷の形が侠であって、職人とも見えない。真面目に睨んだら鋭かろう。だが、現在はニヤリニヤリと、笑をたたえているがために優しく見える大形眼の、鼻は高いが節があるので、十分りっぱということはできない。特徴のあるのは薄手の口で、これまた真面目に引きしめたならばさぞ酷薄に見えるだろう。ところが今は笑っているので、愛嬌あふれるばかりである。年の格好は四十一、二で、精悍らしく小兵である。
「あ、やりおった、またやりおった。ずいぶん上手にはたくなあ」
口の中でつぶやいてつけて行く。
この人物は何者であろう? 誰かが懐中をのぞいたならば、すこしふくらんだふところの中に鼠色をした捕縄と白磨き朱総の十手とが、ちゃんと隠されてあることに、きっと感づいたに相違ない。