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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
恋のお粂
「いやいや盃は差し上げますまい。付け込まれる恐れがありますのでな。……あなたを祝うこともいたしますまい。付け込まれる恐れがありますのでな」――で紋也は酒の満ちている盃を口まで持って行ったが、グッと一息に飲み干してしまった。と、盃を台の上へ置いた。それから少しく据わっている眼を真っ直ぐにお粂の顔へ注いだ。「うっかり好意を見せようものなら、すぐさま付け込んで来るというのが、今の世の人間でございますからな」
で、唇をゆがめて見せた。裸蝋燭の光があたって顔の半面は明るく見えたが、反対側の半面は、影をなして暗かった。で、唇をゆがめた時に、明るい半面に隷属している、前歯の四本だけが光って見えたが、その表情には用心深いところがあった。「どのように我輩を誘惑したところで、我輩は決して誘惑されはしないよ」――といったようなところがあった。
結局お粂は拒絶られたのである。差し出した右手を所在なさそうに――やり場に困るといったように、差し出したままで迷わしていたが、にわかに侮辱でもされたかのように、ヒョイとひっ込ませると頤の下へやった。
「なんの妾がそのようなことを……」