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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
図面の数々
眉毛のない老女がつぶやくようにいった。
「よい家相でございますな。――四面高くして中央平坦、ここに家宅を構えるものは、富貴延命六畜田蚕、加増されて名誉の達人起こり、君には忠、親には孝、他に類少なき上相となす――家相にピッタリとはまっております。どこの農家でございましょうやら?」
――で、三人の老女たちを見た。
「どこの農家でございましょうやら」
隻眼の老女はこう答えておいて、こごませていた体を上へのばすと、投げるように頭を背後へやった、と、すぐその顔を燭台の燈火が照らした。額にも頬にも紐のような、太い皺が幾うねかうねっていて、乏しい燭台の燈火の光に、陰をなすまでに深くもあった。「江戸の界隈に建てられた、農家のようではございませぬな。建て方がいかにも田舎じみております」
「美濃あたりの建て方でございます」
ややあってこのようにいったのは、鼻柱の曲がっている老女であった。「それにしても不思議でございますな、小丘の麓に赤い色で、十文字が三つ記されてあります」
その十文字の赤い符牒を、たしかめようとするかのように、その鼻柱の曲がっている老女は、いよいよ体をこごませて、顔を図面へ押しつけるようにした。