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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

お粂と鈴江

つづいて紋也は温く柔かく――それが額にのせられた時から、一種のなつかしさと物恋しさと、心の平和とを覚えたところの――温い柔かい物を額へ感じた。

「ああ、いいな、心が和む!」――紋也は半意識の中で、こう思って涙ぐみたくなった。「だがこれはなんだろう?」

燭台の燈火がまばたきながら、下へのばされて白く細く、抜け出ている女の頸足と、それへ崩れてもつれかかって、揺れている女の後れ毛とを、惨しくも見えれば艶かしくも見える、そういうように照らしていて、その下に蒼白の色をした、男の顔のあることを、これも橙黄色に照らしていた。いやいや燈光は、その男の額へ、接吻している女の唇の初々しい顫えをも照らしていた。

と、襖が静かに開いた。

お粂と鈴江

襖をあけてはいって来たのは、紋也の妹の鈴江であった。

「容態はいかがでございましょうか?」

ささやくように訊ねながら、寝ている紋也の足のほうへ、鈴江はしずかにすわったが、不安そうに顔を差しのばすと、紋也の顔をのぞき込んだ。

「口をお動かしなされました。ほんのかすかではありましたが、眼もお開きなさいました。もう大丈夫でございます」

襖が開いたので驚いて、紋也の額にあてていた唇をあわてて離すと顔を上げて、急いでお粂はすわり直したが、こういうと鈴江をまぶしそうに見た。