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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

四組の客が同じ宿に

四組の客が同じ宿に

案外に事件は起こらなかった。

三組の人数は歩いていたが、距離がへだたっていたがために、顔を合わせることがなかったからである。幾日か幾日か泊まりを重ねて、三組の人たちは大津の駅路へはいった。しかるに同じ日にもう一組の男女が京都から大津の駅路へはいった。

旅よそおいをした若い娘を乳母らしい老女と下僕らしい男とが、守護でもするように前後にはさんで、入り込んで来た一組であった。すげのかさをかぶって道行を着て、かいきの手甲脚半をつけて、たびに付けひものぞうりをはき、杖をついた娘の旅の姿は、上品で清らかで美しくて、処女の気高ささえ持っていた。引いたように細い三ヵ月形の眉、その下にうるおっている切れ長の眼、鼻の形の高尚さは、人に頭を下げさせるに足りた。長目のあごにかさのひもが、結ばれて赤く見えていたが、唇の赤さと似たものがあった。

「園子お嬢様は旅ははじめて、さぞお疲れでござりましょう。少しばかり早くはござりますが、旅宿を取ることにいたしましょう」――四十歳あまりでたくましくて、忠実らしい下僕はいったが、「お咲殿そのほうがよろしかろうな」乳母らしい老女へ顔を向けた。