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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
紋也の道場
馬酔木の叢を背後にして、倒れそうにして立っている。
日数が重なって初秋が来た。
紋也の道場
日数が重なって初秋が来て、江戸へ涼気が訪れて来た。
とりあつめたる秋の憐れは、芒がなびいて、萩がこぼれて、女郎花の花が露にしおれて、虫の鳴きしきる郊外よりも、都会の片隅にあるものである。微禄の旗本屋敷の塀の、崩れた裾などに藤袴の花が、水引きの紅をひいて、空色に立っている姿などは、憐れみ深いものである。そうかと思うといっそうに微禄の、ご家人などのみすぼらしい邸の、こわれ垣根に寄り添いながら、木芙蓉の純白の大輪の花が行人に見られて咲いていてその奥の朽ちた縁の上に、主人の内職の唐傘などが、張られたばかりの白地を見せて、幾本か置かれてあるようすなどは、凄じいまでの憐れさといえよう。
霧の立つのもこの頃であれば蜻蛉の飛ぶのもこの頃であり、名月の深夜を怯やかしながら、雁の啼き渡るのもこのごろである。で、八百屋の店先などへは、唐芋や八つ頭や蓮根などが、牛蒡や青蕪と位置を争ってその存在を示すようになり、魚屋の店先へはかれいやひしこが、かじき鮪や鯊などと並んで、同じように存在を示すようになる。