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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
見ていけないものを
※(歌記号、1-3-28)うらに来いとの笛の音、裏道来いとの笛の音……
元気よく嘉門は彷徨って行く。
見ていけないものを
※(歌記号、1-3-28)裏道来いとの笛の音……
嘉門は手拍子を打ちながら、元気よく庭を彷徨って行く。
※(歌記号、1-3-28)じょに吹く笛が麓にきこゆるおおさては推した、うらに来いとの笛の音……
元気よく蹣跚として彷徨って行く。手拍子を打つ手がヒラヒラと動いて、明るい初夏の日をはね返して、手首が肩の上へ上がるごとに、手の甲のほうが日蔭となって、掌のほうが明るんで見える。裾を乱して脛を出して、腰から下のほうを少しく沈めて、及び腰をして歩いて行く。顔に真っ向に日がさしていて、面のように調った顔の、眼や鼻に陰影がついている。
そういう嘉門を送り迎えるのは、手広い荒れ庭の草や木であった。
一所に花柘榴の木があって、赤い蕾が珠のように、枝に点々とつづられていたが、その中の二、三顆が襪のような花弁を、恥ずかしそうにはみ出させていた。その根もとにゆらゆらとなびいているのは、これも蕾の百合の花であったが、十日ほどたったら蕾を破ろう。
※(歌記号、1-3-28)うらに来いとの笛の音、うら道来いとの笛の音……