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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

魅入られた左内

盲目なのではあるまいか? 両方の眼を閉じている。が、唇は反対で、無心のようにあけられている、髻はちぎれてはいなかったが、髪が乱れてなびいていた。襟がはだけて胸が現われ、裾が崩れて脛を出していた。二十二、三の若い武士であった。紋也のいるのにも気づかないらしく、小門のある家の小門をめざして、夢中の態で飛び込もうとした。

「待たれい! 貴殿、左内氏ではないか!」

声をかけるとほとんど同時に、山県紋也は身を躍らせたが、背後から若い武士を羽掻い締めにして、ズルズルと小家から引き離した。「やはり北条左内氏だな! 狂気したのか! 心を静めろ!」なおも背後へズルズルと引いた。

魅入られた左内

北条左内と呼ばれた武士は、紋也のために羽掻い締めにされて、ズルズルと背後へ引きずられたので驚きと怒りとを感じたらしい。身を絞って紋也の羽掻い締めから、のがれようのがれようと焦心るようにしたが、

「誰だ! 無礼だ! 手を放せ! ……ああこの手を放してくれ! 呼ばれているのだ、行かなければならない!」

しかし紋也は放さなかった。「俺だ、俺だ、山県紋也だ!」

「山県紋也?」と、それを聞くと、左内は首をかしげるようにしたが、「どこかで聞いた覚えがある。