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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

開けられた窓

「とんだ道草を食ってしまった。どれ急いで走って行こう。お粂姐ごが待っているだろうに」

金兵衛は小刻みに走り出したが、下立売から丸太町を抜けて、所司代の番士のお長屋の、塀の側まで間もなく来た。と、お粂が立っていた。

開けられた窓

「金ちゃん、どうしたんだよ、遅かったじゃないか」

息せき切って走って来た、金兵衛の姿を迎え取るようにして、このように声をかけたのは、徳大寺卿を送ってから、半刻あまりもたたずんで、じれ切っていたお粂であった。

と、金兵衛はお粂の前へ、ピョコリと一つお辞儀をしたが、「姐ご済みません、あやまります。実は道草を食いましてね」

「道草?」と聞き返したがお粂の声は、不安なものを持っていた。

「それではなにかい、てきらの一人と?」

「なんのなんの」とそれを聞くと、金兵衛は手を振って払うようにしたが、「そんなたいした道草の種なら、済みませんなんて謝罪りはしません。ただ道化者に逢っただけで」

「道化者? ふうん、どんな道化にさ?」やはりお粂は不安らしい。

「へい、こういう道化者なので」思い出してもおかしいというように、金兵衛は一件を話し出した。

「お妻さんという綺麗な女太夫さんに、片耳で大男で縹緻の悪い、鴫丸さんという口上いいが、片恋なるものをしていましてね、深夜の京都の町々を『お妻さんお妻さん』