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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

お狂言師の家

「おッ、死骸だ!」とうめくようにいったが、代官松はしゃがみ込んで、その死骸を調べようとした。しかるに引きつづいて意外なことが、代官松の眼前で演ぜられた。覆面の武士の一群が、どこからともなく走って来たが、代官松を押しのけて、男の死骸を運びかけたのである。

「やい、こいつら! 待て! 曲者!」

そういった代官松の怒った顔を一人の武士がのぞくようにしたが。「おお貴様は松吉か」

「どいつだ! あッ、あなた様方で!」

「今夜のことは人に洩らすな!」で、武士たちは足早に去って、代官松だけが残された。

「今夜は皮肉な厭な晩だなあ」

しかしそういう皮肉な晩も、その後、事もなく明けはなれて、翌日の昼になった時に、麹町三番町のお狂言師の、泉嘉門の屋敷の庭で恋語りをしている男女があった。

お狂言師の家

狂言には三つの流派がある。鷺流、和泉流、大蔵流である。ただし現在では鷺流は滅びて、二流だけになっている。「鷺はなかなか軽妙にして飛び放れたる芸をなし、和泉もまた鷺のごとし、唯ひとり大蔵は堅実なる芸をなせば素人受けなき方なり。さはいえ厳格の中に可笑味あり」これが三流の特色である。しかるに旧幕時代においては、鷺流と大蔵流が幕府方で、和泉流だけが京師方であった。