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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
せめてもの介抱
あなたこそお休みくださりませ」「いえ」と鈴江は押し返した。「妾は疲労れてもおりませねば、怪我をいたしてもおりませぬ。それだのにあなた様はお疲労れでもあれば、お怪我もいたしておられますことゆえどうぞお休みくださりませ。兄は大丈夫でございます。妾が看護ることに致しましょう」
しかしお粂はどういわれても、この部屋から出ようとはしなかった。そうして紋也の介抱を、ほかの人にまかせようとしなかった。
お粂にとって山県紋也は、何物にも変えられない恋人であった。その恋人と難を受けて、その恋人と共に戦い、そうして共に怪我を受け、しかも恋人はそれがために、意識を失っているのであった。怪我をしたということと意識を失っているということとは、お粂には悲しくはあったけれども、そのためにこうやってその恋人を、自分で介抱をすることができる。――ということは喜びであった。自分も幾箇所か怪我をしている。しかしそれとても恋人と一緒に、受けたところの怪我であると、こう思えば苦痛にも感じなかった。
自分が介抱に堪えられないほどにも深傷を負っているのであったらほかならぬ恋人の妹である、鈴江に恋人の介抱を、こだわらずに依頼するであろう。