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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

嘉門は先へ歩いて行く。と、草萌えで青み渡っている、小さな築山の前へまで来た。その築山の裾の間から、新しい苔をまとったところの、筧が一本突き出されていたが、清らかの水が筧の口から、泉水の中へ流れ落ちて、細かい飛沫を上げていた。

「のうのう水鏡を見ようずるにて候」

わけのわからないことをいいながら、歩いていた嘉門は足を止めて泉水の縁へたたずんだが、やがて足を曲げてかがみ込んだ。と、姿が水へうつって、小鬢の生え際や額のあたりに、めっきりと増えた白い髪がのぞき込んだ嘉門の眼に映った。

「老いにけらしな今ははや。……なんの芸匠には年はないよ」で、嘉門は立ち上がったが、泉水をめぐって歩き出した。とまたもや嘉門は謡い出した。

※(歌記号、1-3-28)杖にすがりてよろよろと、本の藁屋へかえりけり、百年の姥と聞こえしは、小町が果ての名なりけり……

「俺には年がないにしても、娘のお菊は女の身だ。迂濶にほうってはおかれない。『関寺小町』とおちぶれさせては、親として申し訳がないからなあ」

二坪ばかりの茶畑があって、緑青色の厚肉の葉が、押し合うように盛り上がっていたが、その傍らまで歩いて来た時に、嘉門は胸へ腕を組んだ。