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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
恋の重荷
あるともあるとも大ありだ。現にあのお方があるじゃアないか。……が、どうにもあのお方へだけは差し上げることはできないなあ」
※(歌記号、1-3-28)草木は雨露のめぐみ、養い得ては花の父母……
「おや」と嘉門足を止めて、藤棚のほうをのぞき込んだ。「見て悪いものを見たようだぞ」
藤棚の横に捨て石があったが、それに腰をかけて若い男女が、睦まじそうに話していた。
恋の重荷
藤棚の横の捨て石の上へ、腰をかけていた、若い男女は、ふと話し声を途絶えさせたが、一緒に捨て石から腰を上げた。その時まで遠々しく聞こえていた、嘉門の酔った小謡の声が、だんだんこっちへ近寄って来て、藤棚の向こう側まで来たかと思うと、にわかにフッツリと絶えたからであった。
と、二人は顔を見合わせたが、藤棚の向こう側をすかして見た。その藤棚の向こう側には、白い花をつけた馬酔木の叢が、こんもりと茂っているがためか、嘉門の姿は見えなかった。
「今日も嘉門殿はご機嫌のようで」
「このごろでは父は毎日のように、お酒をあがるのでござりますよ」
「お心に蟠りがおありなさるによって、それで飲されるのでござりましょう」