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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

少しく片寄った頭上の辺には、紫の色の花房を垂れた、藤棚が小高くかかっているし、裾をグルリとめぐるようにしては、馬酔木の叢や百日紅の老木や、灌木などの飛び散っている、この裏庭の奥まった所に、一つの捨て石を横手に据えて、たたずみながら愉快そうに、元気よく軽く喋舌っているのは、紋也の妹の鈴江であった。

と、その気持ちのよい話ぶりのために、今し方左内と別れたことによって、捨て石の一つへつっ伏して、肩をふるわして泣きじゃくっていたお菊も、一時悲しみを忘れたと見えて、泣き顔を袖で蔽うようにしながら、いわれるままに立ち上がって、鈴江と肩を並べるようにした。

二人の娘の並んだ姿は、好もしい一幅の絵のようであった。身長が高くて、肉付きがよくて、肩などまるまると肥えてはいるが、女の美しさを失ってはいない。その眼鼻だちはおおまかで、※(「臣+頁」、第4水準2-92-25)など二重にくくれている。眼は過ぎるほどにも大きくて、やんちゃらしいおどけた表情が、絶えずチラチラと動いている。――これが鈴江の姿であった。吹き針に得意なところから、不断に稽古をするからでもあろう、唇がボッと膨らんでいたが、しかし卑しくは見えなかった。