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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

恋を裂く男

と、水銀のような針の光も消えてしまった。鈴江が掌を閉じたからである。

「息使いがむずかしいのでございますよ。長く続けなければなりませんので。……こう胸を張って、こう首を延ばして、腹一杯に息を吸って、それから針を口へふくんで、それから吹くのでございますよ」で、右手を口もとまで上げた。

泉水のほうから嘉門の声で※(歌記号、1-3-28)裏道来いとの笛の音……と、かすかではあるが聞こえて来た。酔いの醒めない謡声である。

と、微風が渡ったのでもあろう、藤の棚から垂れ下がっている、花の房が左右へなびき出した。

「では吹くことにいたしましょう、口もとへご注意なさりませ」

鈴江が針をふくもうとした時に、裏庭のかなたの小門の辺から、鏘然と太刀音が聞こえて来た。

「おや」と鈴江は声を上げたが、馬酔木の叢の裾の辺まで、小走りに走ってうかがった。

「あッ、お兄様が! あッ、大変だ!」

左の手で小褄を取り上げたが、赤い物を纒った白い脛が、裾からあらわに現われるを、恥ずかしく思わなければ気にも掛けないで、鈴江は一散に走り出した。

恋を裂く男

鈴江の耳へ聞こえて来た鏘然とした太刀の音は、ジリ、ジリ、と後へ退く山県紋也を追い詰めながら、ジリ、ジリ、と前へ進む桃ノ井兵馬が気をいらって、翻然として飛び込んで太刀を上げて、袈裟掛けに日の光を割ったの