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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

隙でもあろうものなら、打ち込もうとひしめき合っているのを、平然として前へ据えて「八方分身須臾転化」敵の一人へは眼をつけずに、八方へ向かって眼を配って、しかも構えは中段を嫌って、上段に竹刀を振りかぶって、居付かぬように竹刀先を揺すぶり、前に在らんと欲して忽然として後に在り――変化自在に足拍子を取って、十数人の門弟を威嚇しながら、「さあ真っ先に誰を打とうか、うむ、よろしい佐藤氏としよう。型は当流での向卍だ。面を取って縦、胴を取っては横、防げるものなら防いでみられい」

叫ぶと同時に紋也の姿が、武者窓からさしていた夕陽を散らして、奔然として飛び出したが、同前に続けざまに竹刀の音が、二つ小気味よく響き渡った。半円の最左翼に構え込んでいた、佐藤志津馬という門弟が、向卍で打ち込まれたのであった。で、志津馬は引き下がったが、もうその時には紋也の姿は師範台の前の元の位置に、同じ姿勢で立っていた。上段にかぶられた竹刀の先が小さな渦を巻いている。柄を握っている左右の拳の、右の甲の辺が光っている。夕陽があたっているからである。と、紋也は声をかけた。

「次は誰だ、字喜多氏にしよう。