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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

――というのが一般の評判であった。ところがこんな事件が起こって、そうして紋也に訊ねられたのであった。「こやつを何者と思いますかな?」と。……で、どうにも答えようがない。で、門弟たちは黙っていた。

と、紋也は門弟たちの、当惑したようなそういったようすを、笑止らしい眼つきで見まわしたが、下げていた竹刀をヒョイとのばすと、胸の上でしっかりと握っている友吉の両手をコツコツと打った。

「右の掌の小指の下と左の掌の人差し指の下に、縄胼胝ができておりますはずで。つまり不断に捕り縄の稽古を規則正しくやっている証拠で。こやつは目明しの輩下でござるということはずっと以前に、こやつが入門を願って来た時から、拙者にはハッキリとわかっておりました。にもかかわらず内弟子として、邸へ入り込ませて自由にさせたのには、少しく意味がありましたので、ようすを見ようとしたのでござる。するとはたして思った通り、表面ではまめまめしく働きながら、蔭へまわると陰険至極にも、拙者の書面をひらいて見たり、拙者の書き物をあけて読んだり、不都合のことばかりをいたしてござる。『ははあいよいよ間者だな』――と、このように見きわめましたので、近日に懲らしめて追いやろうものと、思案を凝らしておりましたしだいで。