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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

蟋蟀の身の上

ですから私は申し上げましたので、もう少しく兄上におかれまして、ご自重なされてくださればよいにと」

「小次郎やお前は若死にしそうだねえ」どうしたものか姉の鈴江は、不意にこういって、小次郎を見据えた。

蟋蟀の身の上

「小次郎やお前は若死にしそうだねえ」と、意外なことをいわれたので、小次郎は怪訝そうに姉をみつめた。と、鈴江はそういう小次郎の顔を鋭く見据えつづけたが、にわかに顔色を寂しそうにした。

「私たち三人の兄弟のうちで、お前さん一人だけが心配性で、物事にひどく屈托をして、悪いほうへ悪いほうへと、考えまわして行くということは、ずっと以前からわかってはいたが、このごろはそういった傾きが、だんだんひどくなって来たよ。で、このままで行こうものなら自分で自分へ病いをこしらえて斃れてしまいそうに思われるのだよ。……なんとなくお前さんは影が薄いねえ。それで妾はお前さんへいいたい。お兄様のことはお兄様にまかせ、妾のことは妾にまかせ、園子様のことなども心にかけないで、お前さんはお前さん一人だけのことを、考えるようになさるがよいとね。なるほどお前さんの眼から見れば、水戸様石置き場の空屋敷などへ、お兄様や妾が出かけて行くのは、物騒にも見えれば危険にも見え、また自堕落にも見えるかもしれない。